恋時雨~恋、ときどき、涙~

だって、そうでもしないと、みんなが困るでしょ?


みんな、わたしを可哀想だと思うでしょ?


わたしの手をそっと外して、


「どうしてかな」


泣き顔のまま、順也が首を傾げた。


ぽとぽと、純白のタキシードに涙が落ちて行く。


「どうして、こんなにいい子だったんだろうね。どうして、神様は、真央を選んだのかな」


この世界は人で溢れているのにね、と順也は続けた。


「ぼくでも良かったのに」


順也の目は、うさぎのように真っ赤だ。


「真央じゃなくて、ぼくから、音を奪えばよかったんだ」


と、順也が両手で耳を塞ぐジェスチャーをした。


そうすれば、きっと、健太さんのお母さんだって……と順也が唇を噛む。


順也は……おひさまみたい。


優しくて、ぽかぽか暖かくて、わたしを幸せにするのだ。


そのおひさまは、わたしのお兄ちゃんであり、友達であり、時にはお父さんのような存在で。


うつむいた順也の肩を叩く。


〈それは、だめ。順也に、わたしと同じ思いはしてほしくない〉


「真央……」


わたしの大切な、この世でたったひとりの、かけがえのない、幼なじみ。


順也にだけは、わたしと同じ思いはしてほしくない。


心から、そう思った。


〈そんなこと、許さない〉


「許さない……?」


順也の片目から、小さな涙がほろりと落ちた。


〈順也は、幸せでなければいけない。もし、神様が、順也から音を奪うというのなら〉


こんなに優しい順也から、これ以上何かをひとつでも奪うというのなら。


〈わたしが、許さない〉


「真央」


順也の目から、綺麗な涙があふれる。


その涙が、順也の手の甲に落ちて行った。


「悔しいね、真央」


そうだね、順也。


「悔しいよ、本当に。悔しくて、たまらないんだ」


きつく握ったこぶしで、順也は自分の膝を打った。