恋時雨~恋、ときどき、涙~

ぼくがいちばん知っているんだ、そう言って、順也は膝の上でこぶしを握った。


その両手は、小刻みに震えている。


少しだけ間があったあと、再び、順也が両手を動かした。


「真央は、とてもいい子なんだ」


夕日を優しくかき混ぜるように、ゆっくり、順也の手が動く。


「耳の事で、いじめられたり、ばかにされても、へっちゃらで。毅然としていて、かっこよくて」


それは、順也がいてくれたから。


順也が味方になってくれたから。


心強かったから。


「スポーツ、得意だし。かけっこだって速いしね。勉強だって、たくさん頑張った」


それも、順也が助けてくれたから。


真央を特別扱いしないで、と、一緒に同じ高校を目指そう、と手を差し伸べてくれたから。


くじけそうになると、順也が背中を押してくれたから。


わたしは、涙を拭った。


そうしないと、涙で順也の両手が見えなくなるから。


わたしの大好きな、優しい手が、滲んでしまうから。


「頑張り屋さんで、我慢強くて。少し、気が強いけど、本当に優しくて。わがままだけど、正直者で。すごい美人じゃないけど、とってもとっても可愛くて」


わたしは、おしゃべりな順也の手に触れて、ふるふると首を振った。


違う。


わたし、順也が思っているような女の子じゃない。


本当は、ひねくれ者で、意地っ張りで、見栄っ張りで。


ただの負けず嫌いで。


だって、本当は恨んでいたの。


平気なふりをしていたけれど、本当は平気じゃなかった。


恨んでばかりいたの。


耳が聞こえないこと。


本当は、みんなの事が羨ましくて、嫉ましくて。


だけど、悔しいから、平然を装って生きて来た、それだけ。