恋時雨~恋、ときどき、涙~

「そろそろ、しんどいのは終わりにしよう。もう、十分だよ」


順也の笑顔が、ほんの少しだけ崩れた気がした。


「これ以上、諦めることも、我慢することも、しなくていいよ」


泣いたのは、わたしのはずだった。


「これからは……」


順也の両手と唇が、震えている。


つつり、と頬を涙が伝い落ちる。


純白の生地に、クリスタル色のひとしずくが落ちた。


「やりたいこと、全部やればいいんだ」


今、泣いているのは、わたしではなかった。


「真央がしたいこと、全部やればいいんだ」


泣いたのは、順也だった。


「全部、全部、全部、やればいいんだ。何も恐れる事はないよ。だって、ぼくがいる。しーも、さっちゃんも。みんな、真央の味方になる」


ぽろ、ぽろ。


「世界を敵に回しても、ぼくたちが、真央の味方になる」


ぽろぽろ、ぽろぽろ。


順也のやさしい瞳から、たまごボーロのようなまんまるの涙が、とめどなくあふれてくる。


わたしは、小さく首を振った。


〈できない。順也たちを、巻き込むのは、嫌。わたしの味方をすると、いつか、後悔することになる〉


「いいじゃないか。後悔したって」


〈でも〉


「同じ後悔をするなら、全部、やりたい事をやって、それから後悔しても、ひとつも遅くないよ」


順也が泣きながら両手を動かし続ける。


「後悔なら、たくさんしてきたからね。もう、なれっこだよ」


次から次へと涙が純白のタキシードに落ちては、波しぶきのように弾けていった。


順也が、あまりにも泣くせいだ。


子供みたいに、泣くから悪いんだ。


わたしまで、泣けてくる。


「ぼくは、知っているんだ」