恋時雨~恋、ときどき、涙~

「ぼくは、誰よりも、知っているんだ。真央のこと」


幼い頃から、いつも一緒だったから。


わたしも、誰よりも知っている。


順也のこと。


「たくさんの事を、真央は諦めて来たね」


その度に、順也は空気のように、わたしに寄り添ってくれたね。


「たくさんの事を、真央は我慢して来たね」


その度に、順也は一緒に、我慢してくれたね。


「ねえ、真央」


順也の手が、ふわりと、わたしの顔を扇いだ。


小さな、優しい風が吹いていた。


海のにおいがする。


〈なに?〉


順也の優しい両手を見ていたら、ふわふわと宙に浮かぶ風船になったような気分になった。


「しんどかったね。真央」


うん。


突然、一気に、唐突に。


順也と過ごして来た、幼い頃からの出来事たちが走馬灯のようにあふれてきた。


それはまるで、やわらかなセピア色のスライドショーのように。


苦しかったこと、悔しかったこと、嬉しかった事も。


順也の右手が伸びて来て、私の前頭部をそっと撫でた。


「しんどい、23年だったね。ぼくたち。だけど」


ぼくは幸せなんだ、真央と過ごして来たこの人生、と順也が微笑んだ。


「真央と一緒に居ると、楽しくて、時間はあっという間に過ぎて行くんだ」


こんな、わたしなのに。


それでも、順也は楽しかったというの。


いつも迷惑ばかりかけて、心配かけてばかりの、わたしだというのに。


目の奥が熱くなって、ぐるぐる、回り始めた。


ふと、力を抜いたりでもしたら泣いてしまいそうで、わたしは奥歯を噛んだ。


泣いて、そうしたら今度は、涙が止まらなくなる気がして、わたしはブーケを抱きしめた。


「ねえ、真央」


わたしは平気なふりをして、にっこり微笑んでみせた。


プルメリアが、仄かに甘く香る。