恋時雨~恋、ときどき、涙~

プルメリアと白いミニバラが、夕日の色に染まってしまいそうだ。


それくらい、今日の夕日は色濃く、美しい。


「見て、真央」


と順也が、真っ赤に熟れたマンゴーのような太陽を指さした。


空の袂が、青とも赤とも表せない絶妙な赤紫色に染まりかけている。


カシスオレンジの色、と順也が笑う。


「きれいだね。ぼくたちが仲良くなった日も、夕日のきれいな日だった」


暮れかけた上空を仰ぐように、順也の両手が空を切る。


「ぼくたちが、初めて笑顔を交わした日を、真央は覚えている?」


5つの春だったね、と5の指を立てて順也が微笑む。


覚えてるよ。


わたしもにっこり微笑み返して、頷いた。


絶対に、忘れたりしない。


もう、18年も昔の事で、なのに、その瞬間の事は今でも鮮明に覚えている。


「今思うと、あれが、ぼくの初恋だったのかもしれない。ぼくの、初恋の相手は」


真央、と順也の人差し指が、わたしの鼻の頭を指す。


「だったんだと思う」


照れているのか、それとも夕日の色に染められたのか、順也の頬がほんのり赤くなっている。


だったら、と思う。


わたしの初恋も、順也だったのだと思う。


あの頃、わたしたちは5歳で、まだ小さくて、家が隣だったから親同士は仲良しだったけれど、わたしたちは遊ぶような仲ではなくて。


会った事、というより、お互いの顔を見た事さえなかった。


順也は保育園に通っていたし、わたしは町の手話・言葉教室に通っていたから、会わない事が当たり前だった。


だけど、ある日、出逢ったというより、ふと、目が合ってしまったのだ。


おとなりさんちの、じゅんやくんに。


その日は空気までふわふわとした暖かくてうららかな春の休日だった。


わたしは風邪をこじらせてしまって、その日の教室をお休みしていた。


夕方になると熱が下がり、少し元気になったわたしは、西日が差し込むリビングの窓を開けて、空を見上げた。