恋時雨~恋、ときどき、涙~

すると、順也は車椅子の背中から真っ白な封書を取り出して、


「さっき、控室に亘さんが来て、置いて行ったんだ」


とわたしの顔の前に差し出して来た。


「昨日の夕方、荷物と一緒に届いたんだって」


潮風が、順也の前髪をさらさらとなびかせた。


順也の黒髪の毛先に西日が透けて、つやつやと光る。


「中を確認したら、間違いなく、果江さんからだったよ」


と封書をわたしに差し出しながら順也がにっこり微笑んだ。


だけど、わたしは〈なぜ?〉と首を傾げた。


〈どうして、わたしに? 順也に、じゃないの?〉


「確かにね、宛名はぼくみたいだけど」


と順也は封書を裏返した。


確かに、順也さんへ、と書かれている。


だけど、順也はまた、封書をわたしに差し出して笑った。


「でも、これ、きっと真央に宛てた手紙だよ」


わたしに?


「中を確認すれば分かると思うよ。これは、真央に宛てたものじゃないのかな」


わたしは緊張しながら封書を受け取り、中から便箋を抜き出して開いた。



前略

順也さん、ご結婚、おめでとうございます。
結婚のことは亘から聞きました。
そちらに伺う事ができなくて、手紙にて失礼します。



わたしは慌てて便箋を畳んで、順也の顔を扇いだ。


〈これ、順也に宛てた手紙だよ〉


と突き返そうとすると、


「違うよ。いいから、最後まで読んで。これは、ぼくに宛てたように見えるけど、本当は真央に宛てたものだから」


と逆に突き返されてしまった。


順也が微笑む。


「ああ、汗かいた。バスケの試合の後みたいな気分だよ」


と順也はわたしの隣に並んで、


「わあ……きれいだね。海に太陽が溶けちゃいそうだね」


と美岬海岸を見下ろして、眩しそうに目を細めた。