恋時雨~恋、ときどき、涙~


「良かった。どこにも居ないから、帰っちゃったのかと思って、心配したよ」


わたしを探して、ずっと車椅子を走らせていたのだろう。


〈ごめん〉


「スマホ、見てない? 何度もラインしたんだけど」


とタキシードのポケットからスマホを取り出した順也の額には、大粒の汗が滲んでいた。


慌ててハンドバッグからスマホを取り出して、タップしてみる。


5件も、順也からのラインが入っていた。


〈ごめん。気付かなかった〉


一応マナーモードにしておいたのに、その振動にすらわたしは全く気付いていなかったのだ。


〈どうしたの? 何かあったの?〉


とハンドバッグからハンカチを出して、額の汗を拭いてあげようとしたわたしの手を、順也がとっさに掴んだ。


「どうしたの、じゃないよ」


と順也は苦しそうに肩を上下させ、呼吸を整えた。


よほど夢中になってわたしを探していたに違いない。


「あのね、真央」


肩を上下させ息を弾ませながら、見て、と順也が指文字を始めた。


「か」


か?


「え」


順也の指の動きに、わたしは目を見開いた。


「果江さん、覚えてる?」


真央、と順也に顔を扇がれてハッと我に返った。


「果江さんの事、覚えてる?」


わたしは一拍置いて、微かに頷いた。