恋時雨~恋、ときどき、涙~

この涙の理由は、どんなに考えてみても分からなかった。


ただ、ひとつだけ、確かな事がある。


わたしは、悲しくてたまらなかったのだ。


健ちゃんがそんな寂しいところにひとりで居るのかと思うと、たまらなかった。


亘さんがにっこり微笑みながら、ハンカチを差し出してくる。


「これ、使って。大丈夫。ちゃんと、洗濯してあるから」


しわひとつ見当たらない、きれいにアイロン掛けされたハンカチ。


ありがとう、と手話をしてから受け取ったハンカチは真夜中の空のような深い色で、やわらかい柔軟剤の香りがした。


ロイヤルブルーよりも遥かに濃い、インディゴブルー。


夜が、わたしの涙をぐんぐん吸い取っていった。


「あのね、真央ちゃん」


その後、わたしは真実と現実を知った。


そして、それはあまりにも大きな衝撃で、わたしの頭は真っ白を通り越して、もう無色透明になっていた。


愕然とする、というのはこういう事を言うのだろう。


何も考えられなかった。


「おれにはもう、どうすればいいのか、分からないんだ。あいつの力になってやりたいんだけど。できないみたいだ」


ただ茫然と、ぼんやり、亘さんの唇を読み続けた。


「ちょうど、3年前の。今日のように良く晴れた日の、夕方だったかな。健太が、美岬海岸に行こうって誘って来て」


それは、わたしがこの町を出て行って、ちょうど一週間後の出来事だったらしい。


その日は梅雨の時期にしては珍しいほどの、朝からとても良い天気だった、と亘さんが教えてくれた。


「電話の声、すごく元気だったから、おれも嬉しくなって。それに、本当に良く晴れた一日だったから。久しぶりに、綺麗な夕日を見るのも悪くないなと思ったんだ」


話し続ける亘さんの顔から、次第に笑みが消えて行った。


「着いた時は晴れていたんだけど、夕日が海に沈みかけた時、突然だった。雨が降って来たんだ」


夕立、分かる? 、とわたしがきちんと読めているかを確認しながら、亘さんは続けた。


「天気雨ってやつだったのかな、あれ。夕日の色の、神々しい雨だった」


こうして、と亘さんが両手で耳をふさぐジェスチャーをした。


「こうやって、耳をふさいで。健太、ああ、静かだなって。それで、こう、言ったんだ」