わたしはボールペンをきつく握って、亘さんの口元を凝視した。
「おそらく。そこに、建物は一件もないんだ。それに、植物はおろか、動物も、人だって存在していない」
わたしは、亘さんが分からなくなった。
唇の動きはしっかり読むことができるのに、その意味が全く理解できない。
「空も太陽も雲もない。風は吹かない。晴れも、曇りも、雪の日もない。雨は降らない」
どうしても、理解できそうになかった。
「車も、バスも、電車も走ってないんだ」
亘さんの唇から次々に飛び出す言葉は、わたしをたまらなく寂しくさせた。
わたしが想像する賑やかな町の風景から、ひとつずつ、確実に、それらが消えて行った。
「きっと、上も下も、右も左も無くて。道だって存在しない」
そういう殺風景な空間に健太は居て、無い道をひたすらに歩き続けている。
わき目もくれず、無心になって、寡黙に歩いているんじゃないかって思う。
「3年前から、ずっと」
ねえ、真央ちゃん、と亘さんに顔を扇がれてハッと我に返った。
「見た、だろ? 健太の目」
見た。
わたしは頷いた。
「健太が、ああいう目をするようになるまで、そう時間は掛からなかったんだよ」
なぜだろう。
どうして、こんなに嫌な予感がするのだろう。
「真央ちゃん。君がこの町を出て行ってから間もなくだったんだ。健太も、この町を出て行ったよ。そして、一度も戻って来ないままだ」
飲み込んだ空気が、喉の奥に引っかかって落ちて行かない。
苦しい。
「健太が行った町は、孤独の町だよ。そこには、誰も入って行く事はできないんだと思う。きっとね」
君も入って行けない、残念だけど。
そう添えて、小さく微笑んだ亘さんは「貸して」と私の手からそっとメモ帳を奪った。
わたしは、素直にボールペンを渡した。
「おそらく。そこに、建物は一件もないんだ。それに、植物はおろか、動物も、人だって存在していない」
わたしは、亘さんが分からなくなった。
唇の動きはしっかり読むことができるのに、その意味が全く理解できない。
「空も太陽も雲もない。風は吹かない。晴れも、曇りも、雪の日もない。雨は降らない」
どうしても、理解できそうになかった。
「車も、バスも、電車も走ってないんだ」
亘さんの唇から次々に飛び出す言葉は、わたしをたまらなく寂しくさせた。
わたしが想像する賑やかな町の風景から、ひとつずつ、確実に、それらが消えて行った。
「きっと、上も下も、右も左も無くて。道だって存在しない」
そういう殺風景な空間に健太は居て、無い道をひたすらに歩き続けている。
わき目もくれず、無心になって、寡黙に歩いているんじゃないかって思う。
「3年前から、ずっと」
ねえ、真央ちゃん、と亘さんに顔を扇がれてハッと我に返った。
「見た、だろ? 健太の目」
見た。
わたしは頷いた。
「健太が、ああいう目をするようになるまで、そう時間は掛からなかったんだよ」
なぜだろう。
どうして、こんなに嫌な予感がするのだろう。
「真央ちゃん。君がこの町を出て行ってから間もなくだったんだ。健太も、この町を出て行ったよ。そして、一度も戻って来ないままだ」
飲み込んだ空気が、喉の奥に引っかかって落ちて行かない。
苦しい。
「健太が行った町は、孤独の町だよ。そこには、誰も入って行く事はできないんだと思う。きっとね」
君も入って行けない、残念だけど。
そう添えて、小さく微笑んだ亘さんは「貸して」と私の手からそっとメモ帳を奪った。
わたしは、素直にボールペンを渡した。



