恋時雨~恋、ときどき、涙~

そして、小さく首を振ってみせると、


「……なんてね。嘘だよ、ごめん」


と今度は一変して、優しい優しい表情になった。


それも、知っている。


亘さんが、本当はとても優しい人だということ。


「そんなふうにあからさまな態度をとられると、良心がとがめられるな。ごめん。わざと、いじわるを言った。悪かった」


本当にごめんね、そう言って頭を下げた亘さんは、どこか悲しそうに見えた。


「嫌な気持ちにさせて、ごめん。真央ちゃん」


亘さんは広い肩幅をすくめて、口元を「ふう」と動かした。


そして、祭壇の真上で光り輝く十字架を見つめると、眩しいのか目を細めた。


わたしは、その横顔に首を振った。


何とも言い表しがたい不思議な空気が、わたしと亘さんの空間に漂っていた。


十字架から視線を戻して、亘さんは言った。


「こんな日が来るのを、おれは待っていたのかもしれないな」


え? 、と首を傾げると、


「この町に、君が戻って来る日を、いちばん待ち望んでいたのは、たぶん、おれなんだ」


3年前からずっとね、と亘さんはにっこり笑った。


少しやつれたような力ない整った笑顔が、なぜか無性にわたしの心を締め付けた。


ロイヤルブルーの絨毯に、ステンドグラスからこぼれる光が吸収されていく。


「3年ぶりに見たこの町は」


と亘さんがわたしの目を指さした。


「真央ちゃんの目に、どんなふうに映って見えているの?」


教えて、亘さんに聞かれて、わたしは頷いた。


そして、亘さんの隣に座り、ブーケを脇に置いて、ハンドバッグからメモ帳とボールペンを取り出す。


【駅前の風景も町並みも変わった
 知らない建物が増えた
 知らない町に来たのかと思った】


メモ帳を見つめながら、亘さんはこくこくと頷いている。


【でも 変わらないものがひとつだけあった】


ハッとした様子で、亘さんが弾かれたように顔を上げた。


「それは、何?」