恋時雨~恋、ときどき、涙~

間違うはずがなかった。


わたしは午後の熱を孕んだ潮風にあおられながら、立ちすくんだ。


すらりと背の高い彼がわたしに気付いて、目を大きくした。


タイトにセットされた黒髪に、黒縁の眼鏡、端整な顔立ちにライトグレーのスーツ。


亘さんが、わたしに微笑んだ。


微笑み返そうと思ったけれど、うまく笑う事ができなかった。


濃い、ダークグレーのスーツ。


水色のネクタイ。


少しつり上がり気味の目元。


3年前はまるでやんちゃなライオンのような、キャラメル色の髪の毛だったのに。


今は、落ち着いた黒髪の無造作な髪型になっていた。


だけど、健ちゃんに間違いはなかった。


彼はきっと笑って、あの頃と変わらずあっけらかんと笑ってくれるものだと思っていた。


心の片隅で、期待していた。


でも、それは、ただのうぬぼれにすぎなかったのだ。


わたしは緊張しながら、右手を小さく振った。


でも、すぐにその手を引っ込めるしかなかった。


目が合ったかと思った瞬間、すぐに反らされ、まるで氷のように冷たい目をした健ちゃんは即刻立ち去った。


慌てた様子で、亘さんが健ちゃんを追いかけて行く。


都合悪そうに、何度も何度も、わたしの方を振り返りながら。


だけど、健ちゃんが振り向く事は一度もなかった。


ショックで、動く事などできなかった。


他人行儀にされた事にショックを受けたわけではない。


わたしがいちばんショックだったのは、その目つきだった。


まるで感情を失ったように暗く、氷のように冷たい目を、健ちゃんはしていた。


わたしを大嫌いになってしまったのかもしれない。


それならそれでいい、仕方のない事だと思う。


だけど、その目には、それ以上の理由があった事にわたしは全く気付いてもいなかった。