恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしたちは、泣いたり、笑ったりを何度も何度も繰り返した。


会話は、一切なかった。


必要がなかった。


ただ、見つめ合って、やがて時間が訪れるまで、泣いたり笑ったりを繰り返した。


「そろそろ、時間やで。行こか、真央。また後でな、静奈」


幸と一緒に控室を出ようとした時、静奈が言った。


「順也には、会ったの?」


わたしはふるふる首を振った。


〈まだ、会ってない〉


「そっか」


と静奈がにっこり微笑む。


まるで、真っ白な月下美人のような、あでやかで、だけど、可憐な笑顔だった。


「あのね、真央」


と、静奈が顔を扇いで笑った。


「奇跡、ってね、起こるものだよ。今日、順也が起こすもの。見ていて」


ちゃんと、見ていて。


そう言った静奈は、眩しそうに目を細めて、窓の外いっぱいに広がる夏空を見つめた。


振り向いた静奈が、幸に問う。


「ね、幸。そうだよね?」


「せやな」


しっかりと頷いた幸の横顔を見つめた。


幸と静奈は、同じ表情をしていた。


同じ、慈愛に満ちた、やわらかな微笑みだった。


「ほな、先に行って待っとるで」


奇跡、ってね、起こるものだよ。


今日、順也が起こすもの。


見ていて。


ちゃんと、見ていて。


礼拝堂へ向かうわたしの頭の中で、なぜか、静奈の手話が何度も何度もリフレインしていた。