恋時雨~恋、ときどき、涙~

でも、いつまで待っていても、頬に痛みが走る事はなかった。


目を開けると、目の前で、静奈は顔をくしゃくしゃに歪めてぼろぼろぼろぼろ、大粒の涙で頬を濡らしていた。


静奈の手が乱暴に動く。


「私や、順也や、幸が、諦めるとでも思った? 東京に行って、人ごみに紛れていれば、逃げ切れるとでも思った? 見つからないとでも、思った?」


静奈の華奢な両手が、ブンブン、空を切る。


「そう思っていたのなら、御生憎様!」


ぎりぎり、ぎりぎりとつり上がっていく、静奈の目尻。


「私たち、しつこいの。どんな汚い手を使ってでも、見つけ出すんだから! もう、逃げたって無駄なんだから!」


静奈の目からあふれ出る大粒の涙が、ドレスに落ちて、弾ける。


「いいよ、またいなくなればいいじゃない! そしたらまた、見つけ出してみせるから! 逃げるだけ、無駄なんだって、思い知らせてあげるんだからっ!」


つり上がっていた目尻が、今度は一気に垂れ下がる。


「もうっ……本当に、頭に来る! 分かってるの? 真央!」


静奈の唇が、凍えたように小刻みに震えていた。


そして、その、両手も。


「怖かったの、本当は……もう、会えないかもしれないって、思っていたのも決して嘘じゃなかったから」


怖かったの、そう言って、静奈は確かめるようにそっとわたしの手に触れた。


「真央の居ない3年間は、つまらなかった。生きているのか、生きていないのか、区別がつかないくらい、つまらなかった」


会いたかったの、そう言って泣く静奈の頬を伝う涙は、クリスタルよりも限りなく透明で。


「待ってたよ。ずっと。真央が、この町に来るの」


おかえり。


おかえり、真央。


静奈の手話を見て、もうこらえきれなくなって、泣いてしまった。


「おかえり。真央。待ってたよ、ずっと」


両手が、震えた。


〈ごめんなさい〉


ううん、と静奈が微笑んだ。


その瞬間、夏の昼下がりの熱い風が入って来て、涙でぬれた頬をやさしく撫でて行った。


少し、ひんやりした。


隣で、幸が泣いていた。