恋時雨~恋、ときどき、涙~

お父さんの手は温かくて、優しくて、ちょっぴり疲れ気味だけど、大きな手だなあ。


大好きなんだ、わたし。


小さなころから、ずーっと。


お父さんの大きな、手。


「もう泣かない。ね、真央。健ちゃんに、会っておいで」


こうやって、何度も壁に当たっても、こうして、何度もわたしの背中を押してくれた。


わたしは、父さんが大好きだ。


お父さんみたいな人と結婚するのが、わたしの夢だったの。


真央はすごいね、とお父さんが微笑む。


何が、どこがすごいのか、わたしには分からない。


わたしは否定するように首を振った。


〈わたしは、自分が嫌い。情けない。すごくない〉


「すごいさ。だって、ずーっと好きだったんだから。ひとりの人をずっと想い続けた真央は、すごいさ」


見つめ合うわたしたちの横に来て、お母さんが膝をついた。


「真央」


とお母さんが、わたしの肩を撫でる。


「知ってたよ、ずっと前からね。真央の心の中にはいつも、健ちゃんがいたこと」


どんなに隠しても、頑張って強がってみても、結局はいつもこうだ。


お母さんはわたしの事なんて全てお見通しで。


わたしは、お母さんには勝つことができない。


一生、できないのだと思う。


「行ってきなさい。返事をしてきなさい」


お母さんが、メッセージカードを指さした。


でも、とわたしは手のひらを返した。


〈もう、3年も経ってしまった。もう、遅いかもしれない〉


それに、健ちゃんにはもう、大切なひとがいるかもしれない。


何より、わたしを軽蔑しているかもしれない。


簡単に諦めてしまったわたしと、最後まであきらめないでくれた健ちゃん。


わたしたちにできた溝は、きっと、深い。


なに弱気なこと言って、とお母さんが笑った。


「どんな結果になっても、後悔するよりいいじゃない。後悔に後悔を重ねるより、ずっといいじゃないの」


そして、お母さんは言った。


だって、まだ3年しか経ってないのよ。


まだ、間に合うかもしれないもの。