恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、全てを失った気になって、ただ、悲劇のヒロインになった気になっていただけだ。


彼の事を知りつくした気でいながら、いちばん分かっていなかったのは、このわたしだった。


わたしはメッセージカードを抱きしめて、奥歯を噛んだ。


涙が止まらない。


健ちゃん。


健ちゃんは……あの時、最後まで諦めていなかったんだね。


ふと、気配を感じ、泣き顔のままドアを見ると、お母さんと、仕事から帰って来たばかりのスーツ姿のお父さんが立っていた。


〈お父さん。お母さん……わたし〉


ばかみたいに、涙があふれた。


手が震えて、うまく言葉にできない。


だけど、もう、嘘は嫌なの。


今日まで、たくさんの我慢をしてきたけれど、もう、我慢をするのは嫌。


耳の聞こえないわたしにだって、譲れない想いが、あるの。


〈わたし……今でも、彼が好き。忘れた日は、一日もない〉


健ちゃんの事が、好きです。


本当はずっと、こうして、誰かに吐き出したくてたまらなかった。


苦しかったよ、ずーっと。


ずーっと。


本当は、健ちゃんが大好きだよって。


忘れられないよって、会いたいよって。


誰かに、分かってほしかった。


それを両手にした途端、一気に力が抜けて行った。


膝から崩れ落ちた時、すうっと伸びて来たのは、お父さんの腕だった。


「行って来なさい。真央。今度のお休みは、パーティー用のドレスを買いに行こう。お父さんと一緒に、買いに行こう」


うんとお洒落をして行くといいよ、そう言って、お父さんは微笑んだ。


「真央が大好きなふたりの事、祝福して来なさい。ずっと、待っていてくれたんだよ。真央のこと」


さあ、もう泣かないで、とお父さんはわたしの頬を濡らす涙を、大きな手のひらで拭いてくれた。