恋時雨~恋、ときどき、涙~

「彼も一度は、別れる決意を固めたらしい。でも、やっぱり、諦める事ができなかったんだろうな。君に、これを渡すために」


と、店長がメッセージカードを指さす。


「あの日、駅に来ていたんだ。でも、その時にはもう、君を乗せた新幹線は出た後で、間に合わなかったんだって」


わたしは、我を忘れて、店長の口の動きを必死になって読み取った。


「君は終わらせたつもりだったのかもしれない。でも、彼の中では終わってなかったんだね。彼は、諦めていなかったんだ、最後の最後まで」


間に合っていたら、君たちはまた違った答えに辿り着いていたのかもしれないな。


神様ってのは、いじわるだな。


そう言って、店長はもっとしっかりとメッセージカードをわたしの手に握らせて、


「何もかも終わったと思うな。まだ、終わってないじゃないか。ひとつも、終わってないだろう」


ぽん、とわたしの背中を押した。


ぽん、と背中を押されて、スイッチを押されたように、唐突に涙があふれた。


ひと粒の涙が頬を伝い、メッセージカードに落ちては細かく弾け散った。


ひと粒出ると、あとはドミノ倒しのように、とめどなく涙が流れるばかりだった。


涙があふれると、今度は封じ込めていた想いが、決壊した巨大ダムのようにどーっとあふれた。


3年前の、あの日。


わたしは確かに、健ちゃんへの想いを、見えないパンドラの箱に詰め込んで、きつく施錠したはずだった。


わたしの想いは、災いを呼ぶものだから。


まして、その鍵は壊さない限り開けられない南京錠。


わたしは泣きながら、空に正方形の箱を描いた。


この、パンドラの箱は、もう二度と開くつもりはなかった。


右手に、透明なハンマーを握った。


思いっきり、右手を振り上げる。


わたしは、透明な南京錠を、一思いにハンマーで砕き壊した。


鍵が、外れた。


見えないパンドラの箱に両手を添えて、ゆっくりとふたを開いた。


おれが、真央の、音になるんけ。


我慢すると、鼻が伸びるんけ。


ドーン。


花火が咲く音。


真央が居ない空間は、息がつまるんけ。


飛び出し、一気に溢れ、あたり一面に充満したのは、健ちゃんへの変わらぬ想いだった。