恋時雨~恋、ときどき、涙~

「そうだと思うよ。君だって、そうじゃないのか?」


え? 、と首を傾げたわたしに、店長は言った。


「君は、まだ、3年前の恋を終わらせてないじゃないか」


つるり、とボールペンが手からすべり落ちて、ベッドで跳ねて、床に落ちて転がった。


店長の目があまりにも真っ直ぐで、反らす事ができなかった。


「君は、俺と一緒に北海道へ行くべき人じゃない」


俺じゃなくて、君が不幸になるだけだ、と店長は続けた。


君には、行くべき場所があって、やるべき事がある。


迷う必要なんて、ないんじゃないのか。


一度、帰りなさい。


帰って、中途半端に投げ出したままのストーリーを動かさなければならない。


「彼に会って、返事をして来い」


返事?


わたしは眉間にしわを寄せて、首を傾げた。


店長の言っている意味の見当が、まったくつかないのだ。


店長は微かに微笑み、床に転がったボールペンを拾うと、わたしの手に握らせた。


「まだ、返事をしていない事があるんだよ。君には」


そう言って、店長は黒いパンツのポケットに右手を突っ込んだ。


店長が取り出した物は、手のひらサイズの小さなカードのような物だった。


「返事をして来い。ミサキカイガンに行って来い」


いや、絶対に行くべきだ。


ミ、サ、キ、カ、イ、ガ、ン、に。


ひと文字ずつ丁寧に言った後、


「これ、幸さんから、預かって来た」


と店長がわたしに握らせたのは、ふたつに折りたたまれた白い、メッセージカードだった。


これは、誰が悪いとか、そういう事じゃない、と店長が言った。


「ただ、君は分からなかっただけだ。だけど、あの日、彼は追いかけて来ていたんだよ」


意味が、分からなかった。


店長の唇は正確に読み取る事ができていたけれど、その意味が、分からなかった。


「幸さんが教えてくれたよ。3年前、彼は、君に、プロポーズしようとしていたんだって。だけど、君が東京に行くと言い出したから、できなかったんだって」


というより、理解するまで、少しだけ時間がかかってしまった。