恋時雨~恋、ときどき、涙~

〈幸は、何も分かってない!〉


さっき、雨に打たれたせいで、風邪を引いたのかもしれない。


体が、異様に熱い。


いらいら、いらいらした。


「はあ?」


わたしと幸は、火花が飛び散りそうな勢いで睨み合った。


〈幸に、わたしの気持ちなんて分からない!〉


「分からん! 分かりたくもないわ!」


幸は床に鞄を叩きつけ、そして、わたしの体を片手で突き飛ばした。


「あんただけ、辛かったんちゃうで! 何も分からんくせに、知っとるような顔すな!」


幸の両手は、怒り狂った高波のように荒々しかった。


けれど、わたしも分かって欲しかった。


辛かった、苦しかった、わたしの3年という歳月を。


わたしはよろけた体勢を直し、今度は幸の華奢な体を突き飛ばし返した。


「何すんねや!」


〈わたしは!〉


その時、きれいな手が伸びて来て、わたしの両手を捕まえた。


「やめろ、落ち着け」


店長だった。


止めに入って来た店長を突き飛ばし、わたしは一心不乱に両手を動かした。


〈辛かった! ずっと、苦しかった!〉


勝手に、涙が頬を伝い落ちて行く。


泣くつもりなんてないのに、心はぐちゃぐちゃに掻き乱れていて、どうにもならなかった。


〈諦めたくなかった! でも、諦めなければならなかった! 忘れるしかなかった!〉


走ったわけでもないのに、息が上がる。


呼吸が乱れ、狂う。


わたしの顔は、悔し涙でびしょ濡れになっていた。


〈忘れなければ、前を向けそうになかった!〉


順也、静奈、幸、中島くんとの別れはもちろん。


健ちゃんとの別れは、それほど辛かったのだ。


幸が食い下がる。


「そんなん、綺麗ごとや!」


幸も、ひどく興奮しているのだと分かる。