恋時雨~恋、ときどき、涙~

振り回されっぱなしや、と幸が苦笑いした。


「真央がおらんと結婚なんかしたない、言うてな。去年も、一昨年も、キャンセルしとんのやで」


キャンセル代もバカにならんで、と幸が続ける。


「いちばん来て欲しい人が来おへんのやったら、何年でも何十年でもキャンセルしちゃる。静奈がな、そう言うてきかんねや」


なあ、真央、と幸がわたしの顔を扇ぐ。


「そろそろ、ふたりを一緒にさせたってよ。うちからの、一生のお願いや」


涙で、幸の笑顔がゆらゆら滲む。


〈わたしが、行ってもいいのかな?〉


「当たり前やんか! 当たり前やろ……みんな、真央を待っとるんやで」


わたしは、今までのこの3年という歳月を、何のために生きて来たのだろう。


「真央は、新郎の幼馴染みやんか。新婦の親友やろ。ちゃうの?」


何もかも忘れたくて、無かった事にしたくて、必死にもがいていただけじゃないか。


ばかみたいだ。


それでも、こんなわたしを待っていてくれた人がいたなんて。


「な。せやから、一緒に行こうや。一緒に、帰ろうや」


だけど、わたしには頷く事ができなかった。


結婚式の日付が、その日と重なっていたからだ。


店長が一緒に北海道へ行こうと言ってくれた、出発の日と。


まだ、店長に返事もしていないのに。


順也に、会いたい。


静奈のウエディングドレス姿が、見たい。


大好きなふたりの門出を祝福したい。


でも。


今のわたしには、できない。


わたしは3枚のカードを閉じて、幸に返した。


〈ごめん〉


「どういうこっちゃ」


幸の顔から、一瞬で笑みが消えた。


「行かん、言うんか」


わたしは、頷いた。


「何でよ!」


幸の右目がぴくりと動いた。