恋時雨~恋、ときどき、涙~

「せやった。あかん。せっかく会えたっちゅうのに、肝心なもん忘れてまうとこやったわ」


〈何?〉


聞きながら、わたしも席を立った。


「あんな。これ、なんやけど」


幸が差し出した物は、純白色のふたつ折りのカードだった。


それも、なぜか3枚もあった。


「良かったなあ。今年は間に合うたわ」


今年は……?


「はよ受け取ってや」


首を傾げながらカードを受け取ったわたしに、幸は「あんたのせいやで」と満開の桜のように笑った。


幸が3本指を立てて、突き出す。


「3度目の正直って、この事を言うんやな。今年が、3度目やで」


開いてみい、と幸に言われて、1枚目のカードを開く。


開いて、わたしは息を止めた。








拝啓 牡丹の花が咲き誇る今日この頃。

皆様にはますますご清祥のこととお慶び申し上げます。

さて、このたび、わたしたちは結婚することになりました。






慎重に息を吐き出しながら、2枚目のカードを開いてみる。


1枚目とまったく同じ文章が綴られてあった。


もう一度、息を止めて、3枚目を開く。


1枚目と2枚目と同じ文章だった。


胸の奥底から、熱い何かが込み上がる。


カードを持つ手が、ふるふると震えた。


小刻みに震えるわたしの手に、幸の手がそっと重ねられた。


「何で、真央が泣かなあかんねん」


アホやなあ、そう言って、幸は春風のように微笑んだ。


自分の事のように、それ以上に、わたしは嬉しくてたまらなかった。


嬉しくて、涙が勝手にあふれてくる。