恋時雨~恋、ときどき、涙~

「あの男とは、どないな関係なん? 真央の、コレか?」


と、幸が親指を立ててニタニタする。


〈コレ、なんて、古いよ〉


「なんやねん。はぐらかさんでもええやんか。で、どうなん?」


何と答えたらいいのだろう。


「さっき、見てもうた。なんや、ええ雰囲気に見えたからな」


彼氏でもなんでもない。


けれど、店長は大切な人だし、一緒に北海道へ行こうと誘われていたりする。


〈彼は……〉


今の状態を包み隠さずそのままの事を伝えると、急に、幸の顔つきが真剣なものに変わった。


「行くつもりなんか? 北海道に。どないするん?」


わたしは首を振った。


「行かないんか」


もう一度、首を振る。


「え……行きよるん?」


〈分からない。まだ、決めていない〉


「……そうなんか」


と背中を丸めた幸は、なんとなく安堵したようにも見えた。


「彼、は」


幸の人差し指が、店長の背中を差す。


次に、わたしを差した。


「真央、の」


幸の瞳はあの頃を変わらず、丸くてきらきら輝いて綺麗で、すいこまれそうになった。


「大事なひと、なんやなあ」


〈どうして……どうして、そう思うの?〉


恋なのか、恋ではないのか。


それすら、自分自身がいちばん分からないでいるのに。


なぜ、第三者の幸に分かるの?


大事なひと、だという事が。


だって、そうなんとちゃうん、と幸が微笑む。


「北海道やろ? 北海道やで、真央。んな遠いとこに行くの迷うてるっちゅう事は、そういう事ちゃうんか」


〈そういう事?〉


「何とも思うとらん人に、今の生活を投げ出してまで着いて行く女なんか、おらん。迷うとるんは、そういう事ちゃうんかいな」