恋時雨~恋、ときどき、涙~

うつむいたわたしの顔をタオルで包み込みながら、


「真央」


と店長が上を向かせる。


わたしの頬を伝って行くのが雨なのか涙なのか、もう判別できなかった。


「北海道に行ったら、また洋食屋を開くつもりだ」


ゆっくりと、店長の唇が動く。


「幸せにする。約束する。俺について来てくれないか、真央」


わたしでいいの?


耳が聞こえなくても?


それでも、わたしを、必要としてくれるの?


訴えるわたしに、


「一緒に、ダイヤモンドダストを見よう」


店長が顔を近づけて来る。


ダイヤモンドダストは、雨を忘れさせてくれるの?


わたしは、静かに目を閉じた。


すぐそこにあった店長の気配が、ふと、消えた。


目を開けると、店長はドアの方を見ていた。


「すみません。今日は、臨時休業なんです」


とタオルをわたしの首にかけて、店長がドアの方へ向かって行った。


ふと我に返って、一気に頬が熱くなった。


今、お客さんが入って来なかったら、わたしは……。


タオルで髪の毛を拭きながら、店長の背中を見つめる。


店長の大きな体の向こうに、栗色の髪の毛がちらりと見えた。


その次の瞬間だった。


店長の体を片腕で横に追いやり、小柄な人が飛び出した。


わたしの手から、雨に濡れた財布がつるりとすべり落ちた。


栗色のボブヘアーの、びしょ濡れの女性が、固まるわたしの前に立ちはだかる。


心臓が、大きく飛び跳ねた。