恋時雨~恋、ときどき、涙~

正確な理由は分からなかった。


でも、なぜだか無性に泣きたくて、どうにもならなかった。


突然降り出した雨が、そうさせたのだ。


雨が降り出した、あの瞬間。


雨で霞んで行く飛鳥山を見た時、その向こうに、懐かしい両手が見えた気がした。


『おれたちに何かある時は、いつも、雨だんけ』


怖かった。


だから、あの時、わたしは駆け出した。


思い出しかけた両手に背中を向けて、一目散に。


あれは、思い出してはいけない両手だ。


もう、思い出してはいけない。


「なんで……泣いてるんだ。なぜ、泣くんだよ」


いつだって、そうだ。


雨が、わたしをそうさせる。


雨が降るたび、何かが、わたしを過去に連れ戻そうとする。


もし、一度でも戻ってしまったら、もう今には戻って来れなくなりそうで怖い。


怖くて、わたしは店長の腕に掴みかかった。


わたしに何かがある時は、決まって雨が降るのです。


雨が、わたしを過去に連れ戻そうとするのです。


雨の日は、いつも、切なくて苦しいのです。


思い出してはいけない人を思い出しそうで……怖いです。


わたしは、店長の手を必死に掴んだ。


雨が、わたしを、過去に連れ戻しに来るのです。


涙があふれる。


あふれて、あふれて……あふれて。


「泣くな。どうして泣くんだ」


わかりません。


わたしは、ふるふると首を振った。