恋時雨~恋、ときどき、涙~

うろうろ、うろうろ。


【Close】のプレートが下がっているドアの前で右へ行ったり左へ行ったり、立ち止まってみたり。


今度はスマホを見つめて難しそうな顔をしたり。


店先で、店長がうろうろしていた。


店長がわたしに気付いて、目を大きくした。


「お前! びしょ濡れじゃないか!」


大きな口で言いながら、店長が雨の中に飛び出して来た。


「どこまで行って来たんだ? とにかく、中に入れ」


そして、わたしの腕を掴んで店の中へ引き入れた。


「うわ、このままじゃ風邪引くぞ。ちょっと待ってろ」


店長は休憩室から大きなタオルを持って来て、わたしの髪の毛を豪快に拭き始めた。


髪の毛先から、雨が飛び散る。


「風邪引いたら大変だ。今日はもう帰ろう。送って行くから」


わたしはじっと見つめながら、店長の腕を掴んだ。


「おい……」


店長と目が合う。


「どうした?」


どうしたのでしょうか。


わたし、どうしたのでしょうか。


雨が降って来た時、わたしは、怖かった。


店長は、いつも、大人の香りがする。


わたしは、店長の目を見つめ続けた。


店長は、雨は、好きですか?


「何だ……泣きそうな顔して」


店長の長い指先がすうっと伸びて来て、わたしの頬を包み込む。


教えてください。


今、この街を濡らしている雨は、どんな音ですか?


「そんな顔……するな」


店長の切なげな視線が、落ちて来る。


「そんな顔、しないでくれ……真央」


初めて、店長がわたしを名前で呼んだ瞬間だった。


わたしの目から、唐突に、涙がこぼれた。