恋時雨~恋、ときどき、涙~

「君が、一緒に来てくれる確率は、低いと思っているし、期待はしていない」


長くてきれいな人差し指が差したのは、雨の季節の真ん中あたりだった。


「だけど、一応ね。ほら、奇跡が起こらないとも限らない」


6月14日。


日曜日だ。


あと、約一ヶ月後。


「一応、飛行機のチケット、2枚とっておこうと思う。予約しておかないと、とれなくなる可能性があるからね」


でも、わたし……そんな急に言われても……。


待って、と目で訴えながら、店長の腕を掴んだ。


「あ……」


わたしが困っていると察したのだろう。


店長が気遣うような笑顔で言った。


「本当に、急いで答えを出さなくてもいいよ。来月の頭にでも、聞かせてくれればいいから」


そんな事を言われても……。


わたしの心は、何かに潰されそうなほど、ぐらぐらと揺れ動いていた。


「君ひとりの問題じゃないだろうからね。君のご両親に」


途中で店長の唇を読むのを止めて、わたしはぶっきらぼうにボールペンを掴んだ。


【何かつめたい物を買って来ます】


「え、冷たい物なら」


これ以上、店長の目を見ている勇気が、わたしにはなかった。


「待って。冷たい物なら」


わたしは鞄に手を突っ込んで財布を取り出し、急いで店を飛び出した。


どうすればいいのか、分からなくなった。


本当に、分からなくなってしまった。


わたしは今日、店長に返事をするつもりだった。


返事を書いた手紙には、たった一言だけ書いて来た。


【よろしくお願いします】


店長と、この先の未来を一緒に歩いて行こう。


そう思っていた。


だけど、それさえもう分からなくなってしまった。


北海道へ、だなんて。


少し、冷静になりたかった。


次々と決断がやって来て、わたしはとうとう冷静ではいられなくなっていた。