恋時雨~恋、ときどき、涙~

「キッチン・タケハナを、閉店する事にした」


真っ直ぐで、迷いのない、決意がみなぎった目だった。


「ばあさんが、倒れた」


店長の唇を読んだ時、背筋に電流が走った。


足のつま先から、一気に力が抜けて行くのが分かる。


「いつか、こんな日が来るのは、覚悟していたんだ」


辛そうにしんどそうに、時々休みながら、言葉を詰まらせながら話す店長の口元を、わたしはただ茫然と見つめていた。


「昨日今日の話じゃないんだ。もうずっと、かれこれ5年になる」


信じられなかった。


おばあさんがこの店に来た時、とても元気そうに見えたのに。


「もともと、呼吸器の弱い人でね。肺の癌を患っているんだ」


……癌。


そんなふうには、見えなかったのに。


「昨晩遅くに、名寄の親戚から電話があって」


貸して、と店長はボールペンを握った。


【ステージⅣ】


書いたそれを指さして、店長は肩をすくめた。


「ステージ、4。他の臓器や、リンパにまで転移していて。もう、長くはないそうだ」


長くて、半年だって。


店長の唇を読みながら、わたしはおばあさんの手の温度を思い出していた。


『あんたが幸せになれる道を選んでね。いいかね。約束よ』


しわしわの口元。


しわしわの目尻。


こけた、ほっぺた。


大きな大きな、瞳。


真っ白な髪の毛。


『真央さん』


思い出して、


『真央さん』


思い出したら、胸も心もいっぱいになって、呼吸が速くなった。


わたしはとっさにボールペンを掴んだ。