恋時雨~恋、ときどき、涙~

やっぱり、店長の姿はなかった。


仕込をした形跡はおろか、ここへ入ったような様子もない。


食器の位置も、調理器具の位置も、前日のままだ。


おかしいな。


店長にラインをしようと思い、鞄からスマホを出した次の瞬間だった。


店のドアが開いて入って来たのは、ひどい顔の店長だった。


「あ……遅くなった。すまない」


わたしを見るや否や、


「疲れた」


店長は力尽きた旅人のようにふらふらとテーブル席に向かい、崩れ落ちるようにチェアーに座った。


「実は、寝てないんだ」


一体、何があったのだろう。


ひどい顔だ。


腫れぼったい目の下は濃いくまが出来ていて、いつも澄んだ色をしている瞳は痛々しいほど充血している。


たった一晩だというのに、やけにやつれたように見える。


【どうしたの? ひどい顔】


わたしはメモ帳を差し出しながら、店長の正面に座った。


でも、店長は何も答えなかった。


「ああ……」


それっきりうつむいて、顔を上げようとしない。


時間だけが、刻一刻と過ぎて行った。


開店時間を回った頃、店長はようやく顔を上げて、言った。


「今日は、臨時休業だ」


びっくりした。


定休日以外の日に休んだことは、今までに一度だってなかったのに。


お盆もお正月も、台風が直撃しても上陸しても、休んだ日はなかった。


「君に、謝らなければならない事があるんだ」


店長は疲れ切った表情を一変させ、目をきりりとさせて、その事をわたしに告げた。