恋時雨~恋、ときどき、涙~

凍てついていたわたしの心が、じわじわと溶けだして行くようだった。


「秀一のことは気にすんな。あんたの気持ちがいちばんだ。あんたが、秀一となら幸せになれると思ったら、一緒になればいんだから」


降り積もった雪が、少しずつ溶けだして行くように。


優しい気持ちになったのは、久しぶりの事だった。


「秀一じゃ、自分が幸せになれねえと思ったらやめればいんだからよ」


店長のおばあさんもまた、透明な人だった。


「真央さんなりに考えて、答え出してければいいんだあ。秀一と一緒になりてえと思ってくれればそりゃ嬉しいけど。だめだばだめで仕方ねえ」


おばあさんの手が、あまりにも温かくて、わたしは涙を堪える事で精一杯だった。


「あんたが幸せになれる道を選んでね。いいかね。約束よ」


頷きながら、本当は、少しだけ、泣いてしまった。


店長の事は、もちろん好きだった。


でも、それは仕事の上司として尊敬の気持ちだ。


この気持ちが恋愛感情に発展して行くのかは検討もつかない。


だけど、もしかしたら、そういう日が来るのかもしれない。


根拠など、無かったけれど、そう思った。











「そう、武塙さんのおばあさんが来たの」


その日の夜、お母さんが複雑な面持ちで言った。


「あの頃と今は違うよ、真央。あの頃は無理だったかもしれない事も、今なら無理じゃないかもしれないの」


あの頃、わたしたちはみんなまだ若くて、まだ責任もとれない微妙な時期で。


お互いに必死で、頑張る事を頑張り過ぎて、疲れるばかりだったのかもしれない。


でも、お母さんが言うように、今は違うのかもしれない。


3年前とは違うのかもしれない。


深い深い迷いの中で、わたしは真剣に考え始めていた。


けれど、わたしが何かを求めようとすると、必ず、違う何かが逃げて行くのだ。


わたしがようやく歩き始めようとする道は、いつだって、突然、、複雑に入り組んだ迷路に変わってしまうのだ。