きりさめ、キリサメ、霧雨。


ミストシャワーみたいな、雨。


知らない街に降る、知らない、雨。


霧雨に濡れる、王子駅。


ビニール傘を差して笑顔でポケットティッシュを配るお兄さんの足元に、一輪の白いデイジーがひっそりと咲いている。


やわらかな霧雨に濡れながら。


わたしは目を閉じて、耳を澄ませた。


何も、聞こえなかった。


右目尻から、涙が伝い落ちる。


霧雨が、顔を濡らす。


せっかく、雨が降っているのに。


だけど、もう、わたしに優しい時雨が降ることはない。


ここには、健ちゃんは……いない。


ここに、ひだまりは、ない。


今度は、左目尻から、大粒の涙が伝い落ちていった。


恋も、時雨のように、長く続くものならいいのに。


恋が、こんなにも辛くて苦しいものだというのなら。


わたしはもう……恋なんて、しない。






恋なんて、しない。