恋時雨~恋、ときどき、涙~

夕日がきれいな、あの海辺の町で。


ひだまりに包まれていたかった。


優しい時雨を、ふたりで感じていたかった。


音が無くてもいい。


うさぎに憧れながら、ライオンに憧れながら、寄り添っていたかった。


わたしはただ、あなたの隣にいたかったの。


健ちゃん。


うつむいて肩を震わせるお母さんに、こっそり手話をした。


〈いつか、わたしにはバチがあたる気がする〉


大好きな彼の温かい気持ちを、わたしは泥足で踏みにじる形を取ってしまったのだから。


人はどうして、後悔してから気付くのだろう。


自分の本当の気持ちに。


人はなぜ、失ってみないと分からないのだろう。


いちばん大切な存在を。


わたしは、後悔している事に、後悔した。


わたしは、なんて愚かな人間なのだろう。


わたしはなぜ、こんなにも、彼の事が大好きなのだろう。


どうして、この想いを伝える事もせずに、来てしまったのだろう。


健ちゃんと過ごした全ての季節があまりにも温かくて、これからどうやって整理して行けばいいのか見当もつかない。


どうすればいいのだろう。


健ちゃんとの想い出が、あふれて止まらなくて。


その大きさは、計り知れなくて。


ランチバッグに顔を埋めて、泣き崩れるしかなかった。


健ちゃんの匂いが、ほんの少しだけする気がした。


ごめんね、健ちゃん。


ごめんなさい。


泣いても、泣いても、泣いても。


あふれて、あふれて、止まらない。


あの海の波のように、健ちゃんへの想いがあふれて、どうにもならない。