恋時雨~恋、ときどき、涙~

ああ。


疲れた。


自覚した途端、わたしが張っていたつまらない意地も、無駄な強がりも、土砂崩れのように崩れて行った。


今日までの我慢が涙になって、土石流のように頬を伝っていく。


悔しくて、苦しくて、悲しくて。


みじめで。


もう、止まらなかった。


それでも、構内を行き交う人たちはわたしの涙は愚か、両手で会話するわたしたちに目もくれず、さっさと歩いて行く。


わたしは、この世に存在していないのかもしれない。


そう思わずにはいられないほど、駅の空気は雑念としたものだった。


だから、余計に泣けて泣けて、たまらなかった。


そうか。


ここは、東京という賑やかで忙しい街は、わたしの知らない土地だった。


わたしが生まれ育った、大切な人たちと出逢い別れた、ゆったりとした時間が流れるあの海辺の町とは違うのだ。


同じ日本なのに、まるで異国のように別世界だ。


海辺の町ではのんびりと流れていた時間が、ここでは颯爽としていてせかせかしている。


行き交う人はみんな真っ直ぐ前だけを見て、その目は見えない何かと戦っているような気がした。


痛いほど、思い知らされる。


わたしは、今、本当にひだまりを失ってしまった。


〈お母さん〉


助けて。


誰か、助けてください。


泣き続けるわたしを見つめるお母さんの瞳は、苦しそうだった。


「何、真央」


わたしはこれから、どうすればいいのかな。


もう、過去に戻る事などできない。


この知らない街で、右も左も分からない。


いつも手を差し伸べてくれた順也も静奈も……あのあっけらかんと笑う健ちゃんも居ない新しい街。


わたしには、前に進む勇気なんて、ない。