恋時雨~恋、ときどき、涙~

初めて見る巨大なエスカレーターを上った先に改札はあって、その先でわたしに手を振っていたのは久しぶりに見るお母さんだった。


「お母さん?」


愛美さんに聞かれて頷くと、彼女は向こうのお母さんに会釈をして、


「それじゃあ、ここで。また会う事があったら、その時はお茶でも」


と足早に改札を抜けて居なくなった。


だけど、それから彼女と会う事は一度もなかったけれど。


改札を抜けると、少し痩せた、でも、とても顔色の良いお母さんが笑っていた。


「きれいになったね、真央。少し見ないうちに、大人になった」


わたしは苦笑いした。


大人になんてなっていない。


大人になんかなりたくない。


浮かない様子のわたしを見て、お母さんも苦笑いに変わった。


お母さんの両手が動く。


「疲れたでしょう?」


わたしはふるふると首を振った。


疲れたわけじゃない。


そもそも、疲れたのか疲れていないのか、区別がつかないほど、何が何なのか分からない。


まるで、連続で押し寄せる波のように、人が駅構内を流れて行く。


〈疲れてない〉


「嘘。疲れてるじゃない」


でも、お母さんにはすぐにばれてしまう。


お母さんは、いつもわたしの事などお見通しだ。


「真央の心が、疲れているじゃない」


一生、お母さんには敵わない。


わたしは胸に手を当てた。


……本当だ。


鼓動が弱弱しく、私の体を叩いている。


疲れて疲れて、もうぼろぼろのくたくただ。