恋時雨~恋、ときどき、涙~

肩に、やわらかな感触があった。


顔を上げると、微笑む愛美さんがわたしにハンカチを差し出してくれている。


「ど、う、ぞ」


水色のハンカチは、優しい香りがした。


良く晴れた日の昼下がりのような、カモミールのような、甘いりんごの蜜のような。


健ちゃんが醸し出すような、ひだまりの香りだった。


AM 10:00


新幹線は、仙台駅に停車した。


がらんとしていた車内が、乗客で一気に窮屈になった。


「混んで来たね」


愛美さんが、大きな口で話しかけてくる。


わたしは頷いた。


荷物を膝の上に乗せて手紙をしまっていた時、新幹線が発車した衝撃と勢いで荷物がばらばらと散らばってしまった。


いけない。


急いで拾い集めようとした時、銀色のおむすびがころころ転がって、愛美さんの真っ白なパンプスのつま先にぶつかって止まった。


白くてきれいな手がすっと伸びる。


愛美さんはおむすびを拾い、それをわたしの顔の前に差し出して来た。


息ができなかった。


これ……。


愛美さんの手のひらに乗るおむすびを見て、わたしは想像した。


キッチンに立って、慣れない手つきで一生懸命おむすびを握る、彼の後姿。


「どうしたの?」


固まり続けるわたしの手に、愛美さんがおむすびを握らせる。


健ちゃん……。


息をするのがやっとで、今、自分が生きているのかさえ分からなくなるほど、わたしは動揺していた。


手も足も、唇も震えていた。


健ちゃん。


愛美さんに肩を叩かれて、ハッとした。


「大丈夫?」


わたしは頷いた。


本当は、全く大丈夫なんかじゃなかった。