恋時雨~恋、ときどき、涙~

今度は、振り返らなかった。


もう、ホームに新幹線は到着していて、指定の車両に乗り込む。


朝二本目ということもあってか、車内はまだがらんとしていた。


指定席に座り、荷物を足元に置き、わたしはうつむいた。


今日まで、どれくらい泣いたのだろう。


疲れてしまった。


すると、隣に誰かが座る気配がした。


ふと、顔を上げると、その人と目が合った。


「あっ……ごめんなさい。ぶつかっっちゃいましたか?」


同い年か少し年上に見て取れる、清楚な感じの女性だった。


真っ黒でたっぷりとした髪の毛は背中まで長く、切れ長で可憐な目が、まるで日本人形のような人だった。


「あの……」


茫然とするわたしに、彼女は何か話しかけてくる。


けれど、もちろん聞こえないし、唇の動きが早すぎて読み取ることもできない。


鞄からメモ帳とペンを取り出して、すみません、耳が、と書いていると肩を叩かれて顔を上げた。


「貸してもらえる?」


わたしが頷くと、彼女はペンをとり、メモ帳に書いた。


【舟木 愛美 ふなき まなみ といいます
 あなたは?】


【武内 真央 たけうち まお
 愛美さんはどこまで行くの?】


【上野 真央さんは?】


【同じ 上野です】


「えっ、ほんと? 偶然ですねえ」


愛美さんは、とても気さくな女性だった。


彼女はわたしより二つ年上の22歳で、夢を叶えるために今日、上京するのだそうだ。


7時4分。


体がガクリと前に傾き、新幹線が動き出す。


ゆっくりと加速する新幹線は、6月の風を切り開きながら、ホームを走り出した。