恋時雨~恋、ときどき、涙~

通勤ラッシュ前の改札口はとてもゆったりとした時間が流れている。


「さ、真央」


順也が、両手をいっぱいに広げる。


わたしは、その胸にそっと飛び込んだ。


順也が、わたしを抱きしめる。


順也。


順也。


順也……。


わたしの友達であり、兄であり、時には父親のような、大切なおさななじみ。


そんな事を言ってくれたのは、順也が初めてだった。


『真央を特別扱いしないで』


わたしの両親にそんな事を言ってくれたのは。


順也は、わたしのスーパーヒーローだった。


そして、順也もまた、優しいひだまりだった。


体を離して、わたしたちは微笑み合った。


隣で、なぜかやきもきしていたのは幸。


「何やっとんねん。アホか。早うせんと時間が来てまうで」


来たらしばいたる、そう言って、幸はキョロキョロと忙しない。


〈何? どうしたの?〉


わたしが聞くと、幸は髪を掻き乱して、


「あんな、今、もうひとり来ることになってんねやけど。おっそいわ」


と肩を落とした、その時だった。


あ、と向こうを指さしたのは順也で、向こうから走って来るのは中島くんだった。


「ごめん! ああ、間に合った」


ふうう、と息を吐いて背中を丸めた中島くんに、幸が詰め寄る。


「おっそいわ! 何をちんたらしとったんよ」


しゃきっとせんか! 、思いっきり背中を叩かれた中島くんが、飛び跳ねるように直立した。


「ねえ、真央」


順也が、わたしの顔を扇ぐ。