恋時雨~恋、ときどき、涙~

「しーは、真央を困らせたくないんだ、きっと。ぼくは、そう思う。真央のことが大好きだからね、しーは」


泣いて、わめいて、困らせたくないから、これなかったんだ。


大好きな真央が決めた道を応援するためには、こうするしかなかったんだと思うんだ。


来たくなかったんじゃない。


来たくても、どうしても、来れなかったんだと思うんだ。


来たら、真央を力ずくで引き止めて困らせてしまうから。


しーは、来れなかったんだ。


と、順也は必死に両手を動かした。


「しーのこと、嫌いにだけはならないで。真央」


何をいうのか。


わたしが、静奈を嫌いになるわけがないのに。


例え、極悪の犯罪者に静奈がなったとしても、わたしは嫌いになることはない。


〈わたしは、静奈が大好きだよ。嫌いになるなんて、できない。どんな事があっても〉


わたしの両手を見つめていた順也が、安堵したように笑った。


「良かった」


それと、もうひとつ、お願いがあるんだ、と順也が言い出した。


〈何?〉


首を傾げて見せると、順也は照れくさそうに笑った。


「一度だけ、真央を抱きしめてもいいかな?」


〈わたしを?〉


「うん。あ……健太さんに怒られちゃうかな」


わたしは、ふるふると首を振った。


〈もう、別れたから。わたしはもう、彼の恋人ではない〉


儚いものだ。


別れると、もう赤の他人だ。


もう、わたしと健ちゃんを繋ぐものは、何も無い。


あれほど、一緒に過ごしてきたというのに、これからは赤の他人なのだ。


「でも、健太さんは」


何かを言いかけた順也の両手をわざと無視して、わたしは逆に聞いた。


〈順也こそ、大丈夫なの?〉


「え?」


〈わたしを抱きしめたりして。ばれたら、静奈が怒るかもしれない〉


すると、順也は可笑しそうに吹き出した。


「その心配はないよ」


〈絶対、と自信を持って言える?〉


ああ、と順也は自信満々に頷いた。


「だって、しーは、真央のことが大好きだからね。すごく。ぼくは真央の次だから」