恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんといると、どんな事があっても楽しかった。


健ちゃんのとなりは、とても暖かくて。


そこは、ひだまりだった。


どんな事も、乗り越えられると思っていた。


だけど、今回は、さすがに乗り越えられなかった。


へこたれてしまった。


わたしたちは、ほんの少し、見つめ合った。


いろんな事があったね。


本当に、いろんな事があったね、健ちゃん。


風が、やんだ。


まるで、時間が止まったかのように、ぴたりと。


わたしは、両手のひらの指先を前に向けて向い合せた。


さようなら、健ちゃん。


両手のひらを前に向ける。


左右に構え、手首から前で同時に倒す。


〈お世話に、なりました〉


ぺこりと頭を下げて、わたしはひだまりに背中を向けた。


さようなら。


今日まで、ありがとう。


そして、走り出した。


もう、絶対に振り向かないと、心を決めて。


一気に駆け抜けて大通りに出たところで、わたしは立ち止まり、呼吸を整えながら歩いた。


ゆっくり、早足、そして、また走り出した。


はやく、もっと早く。


そうでもしなければ、振り返ってしまいそうだった。


わたしは、理性を見失った競走馬のように走り続けた。


意地もプライドも何もかも振り落として、走り続けた。


さようなら、健ちゃん。


もう、会えない。


大好きだからこそ、もう、会えない。


もう……会わない……。