恋時雨~恋、ときどき、涙~

「行け!」


うさぎを追い払おうとする、ライオンだ。


「行けって!」


わたしはとっさにきびすを返して、駆け出した。


けれど、抱えていたランチバッグを落としてしまい、立ち止まった。


ランチバッグを拾い、振り返る。


そこには早足でアパートへ引き返す健ちゃんの背中があった。


健ちゃん。


ごめんなさい。


健ちゃん。


ここまで自分がバカだったなんて思っていなかった。


失おうとして……違う。


自ら望んだことのはずなのに、失おうとして、こんなに後悔しているなんて。


ばかみたい。


健ちゃん。


わたし、今、気づいたの。


今さらになって、気づいたの。


どうしよう。


好き。


本当に、どうすればいいのか分からないくらいに、大好きなの。


遠ざかる健ちゃんの背中。


あふれる涙が頬を伝い落ちる。


どうすればいいのか分からなくて、ただ、立ち尽くすしかなくて。


涙で滲む先に、どんどん遠ざかって行く背中が霞んで見えた。


待って。


健ちゃん、待って。


まだ、行かないで。


まだ伝えていない事が、わたしにもあるの。


待って。


もう一度だけ、顔を見せてはもらえませんか?