恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんと別れること。


順也や静奈という大切なひとたちの元を離れて、この町を出て行くこと。


今の幸せを自らの手で切り離すこと。


決めたのは自分なのに、泣くなんて、それこそまぬけだ。


そう思っても、涙があふれそうになる。


〈健ちゃん、ごめんなさい〉


ごめんなさい。


こんな終わり方になってしまって、ごめんなさい。


「何で、真央が謝るんけな」


〈だって、わたしが全部こわしてしまったから〉


こんな身勝手なわたしを、恨んでください。


いっそのこと、一生、許さないでください。


〈健ちゃんがくれたきれいな世界をこわしたのは、わたしだから〉


「やめろよ、そんなふうに考えるなんて、最低だんけ」


健ちゃんが、肩をすくめる。


〈わたしに出逢っていなければ、健ちゃんは今、とても幸せだったのかもしれない〉


「だんけ、やめろって言ってるだろ」


でも、わたしはやめなかった。


涙をこらえて、両手を動かし続けた。


〈わたしを、嫌いになって。恨んで。どうか、わたしを……忘れてください〉


「真央! いい加減にしろ!」


健ちゃんが、大きな声を出したのだと分かった。


アパートの前を掃除していた大家さんがギョッとした顔でわたしたちを見ていた。


「いいか、真央」


健ちゃんが目を吊り上げて、わたしを指さす。


「おれは、真央のこと、絶対に忘れたりしねんけ」


〈どうして?〉


「そんな簡単に忘れる事が出来るような恋だったら、おれは始めから、真央を好きになってねんけな」


健ちゃんのぶっきらぼうな手話が鋭い矢となって、胸にグサリと突き刺さる。