恋時雨~恋、ときどき、涙~

ライオンのような頭をした、あっけらかんと笑う人と出逢った、あの夏の日から。


つまらなかったはずの世界が、お腹がねじれてしまいそうなほど、可笑しくて面白くて。


それを教えてくれたのは、ライオン丸。


ライオン丸の隣に居ると、いろんな音が見えて、それはもう楽しくて可笑しくて。


聞こえる事はなかったけど、音が見えたから、うれしくて。


耳の聞こえないわたしに何ひとつ気遣うわけでもなくて、失礼なほど能天気であっけらかんとしていて、もうずっと前からの気心の知れた友達みたいに接してくれて。


耳が聞こえないことが何だよって、それが自然なことのようにわたしにぶつかって来てくれたから、とにかく嬉しかった。


健ちゃんと出逢ったあの日から、今日までずっと。


きれいな世界に、わたしは、今、生きている。


舞い上がる木の葉の向こうで、健ちゃんは不安そうな顔でもう一度、聞いてきた。


「音のない世界は、どんな感じ?」


うん。


そうだなあ。


わたしは、にっこり微笑んだ。


〈音のない世界は、きれいだよ〉


それは、それは、たまらず息を飲んでしまうほどきれいなの。


「そっか……そうかあ!」


安堵したのか、健ちゃんは白い歯をこぼれさせて笑った。


「例えば? 例えば、どんな世界なんだ?」


例えば?


うーん、そうだなあ。


わたしは、頷きながら笑った。


〈例えば〉


健ちゃんがくれたこの幸せな時間をどんな言葉にして両手で表せば、うまく伝える事ができるのだろう。


すごく、すごく、考えた。


限られた時間の中で考えたすえ、答えはこれしかなかった。