恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは中学を卒業したら、隣県のろう学校へ行く事になっていた。


でも、行かずに済んだのは他でもない順也のおかげだ。


「ぼくが責任とるから。ぼくが真央の耳になるから」


と普通の高校に進学できるように、わたしの両親を説得してくれたのが、笹森順也(ささもり じゅんや)だった。


順也は、わたしの幼馴染みだ。


あの頃、中学3年生の夏、わたしは目の色を変えて勉強した。


クラッシュゼリーのように脳ミソが溶けるんじゃないかってくらい、必死に勉強をした。


そして、努力が実り、周りの協力もあって、なんとか順也と同じ高校に進学する事ができた。


明るく、天真爛漫な静奈と出逢ったのは、その高校に入学した日だった。


同じクラスで、たまたま隣の席に座っていた女の子が、静奈だった。


物珍しそうに白い目でわたしを見てくるクラスメイトたちの中で、静奈だけが違っていた。


クラス全員の名前が書かれた名簿をわたしの顔に突き出して、その名前を指差し、静奈は笑った。


「私、ながさわ、しずな。今日から友達ね」


翌日には幾つかの簡単な手話を覚えて来て、わたしに話し掛けてきてくれたのだ。