恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、どれくらいばかなのだろう。


どこまでばかになれば、気が済むのだろう。


一体、何を期待していたのだろうか。


何もかもを捨てて、この街を出て東京へ行くと決めたのは、わたしだ。


行くな、と引き止めてくれたみんなを振り切って、ガンとして頷かなかったのも、このわたしだ。


そのくせに、一体、何を期待していたのか。


今も、引き止めてもらえる気がしていた。


まさか、こんな形で背中を押されることになるとは思っていなかった。


「腹が減っては戦はできぬっていうんけなあ」


ランチバッグを手に固まるわたしに、健ちゃんはいつもの笑顔を向けて来る。


「東京はたくさん人がいるんけ。迷子にならないようにな」


その屈託のない笑顔が、逆にわたしの胸を締め付ける。


わたしは、矛盾している。


本当は引き止めて欲しくて、たまらない。


〈健ちゃん〉


震える手で、その顔を扇いだ。


引き止めてくれるものだと、わたしはこの期に及んで信じていたのだ。


真央、行かないでくれないか、と。


うぬぼれも甚だしい。


〈止めないの?〉


心から、止めて欲しいと思っていたのだ。


矛盾も甚だしい。


「何言ってるんけ、今更」


健ちゃんが困った顔で、両手を動かした。


「止めても無駄なんだろ? 言い出したらきかないその性格、おれはちゃんと知ってるんけ」


それなら、その性格を、わたしは恨んだ。


涙があふれる。