恋時雨~恋、ときどき、涙~

「少し早いけどな。朝飯にするんけ。朝からハヤシライスも、たまにはいいもんだ」


せっかく、真央が作ってくれたんだからな。


わはははは、と大きな口で笑いながら、健ちゃんはコンロの火を止めた。


どうして……。


健ちゃん。


「ほら、あっち行って座ってろ。真央の分も持ってってやるんけ」


健ちゃん。


「なんだ、ぼけっとして。真央?」


どうして、そんなに、真っ直ぐ笑うの?













食欲なんて、全くない。


ハヤシライスが、どんどん冷めていく。


大食い選手権のようにバクバク食べ続ける健ちゃんを、わたしはただぼんやり見つめ続けた。


不思議でたまらなかった。


あまりにも普通過ぎる。


わたしは今日、もうすぐ、この街を出て行く。


東京へ行くのに。


いつもの穏やかな朝と少しも変わらない雰囲気が、わたしと健ちゃんを包み込んでいた。


ハッとした。


「真央?」


健ちゃんが、わたしの顔を扇ぐ。


「ハヤシライス、食わないのか?」


わたしは小さく頷いた。


食欲なんて、ない。


「なら、おれが食う」


わたしは頷いて、前にお皿を滑らせた。


すごい食欲だ。


さっき、2回もおかわりしたのに。


急に可笑しくなって、わたしは小さく吹き出した。


「お、笑った」


と健ちゃんがスプーンを置く。


そして、両手を動かした。