恋時雨~恋、ときどき、涙~

冷たいドアを両手が這う。


わたしはその場に、泣き崩れた。


あの、真冬の日を思い出す。


静奈が上京しようとしていたのを引き止めに行った時、健ちゃんは言った。


『奇跡は起きるから、奇跡っていうんけ』


胸が張り裂ける。


巨大なダムが決壊したように、涙があふれる。


でも……健ちゃん。


やっぱり、そうなのかもしれない。


奇跡は起きないから、奇跡というのかもしれない。


だって、ほら。


今夜はとてもきれいな月夜で。


今にも夜空から降って来そうなほど、億千の星が瞬いている。


雨なんて、ひと粒も落ちて来ない。


……降ってない。


わたしたちにはもう、優しい時雨は……降らない。













ハッと目を覚ますと、わたしはソファに突っ伏していた。


覚えのない薄手のタオルケットが体を包み込んでいた。


体が重くだるい。


目が腫れぼったい。


どうやら、ソファにうつ伏せになって泣きながら眠っていたらしい。


頬に触れるとぱんぱんにむくみ顔なのだと分かる。


リビングに朝陽が差し込んで、わたしの体を照らしていた。


朝が来てしまった。


5月31日。


ついに、来てしまった。