恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしはそれを突き返した。


これは、受けることができません。


「いや……」


亘さんが目を丸くした。


健ちゃんの気持ちを土足で踏みにじったわたしに、ハンカチを受ける資格なんてない。


ガンとして首を振り続けるわたしに、


「参ったな」


亘さんはその手をひっこめて、苦笑いした。


「この話をすれば、真央ちゃんが思い止まってくれるんじゃないかって……期待したんだけどね」


無理みたいだね、そう言って肩をすくめた。


「いいよ。うん。分かった」


え? と首を傾げたわたしに、亘さんは小さく微笑んで、おもむろにスーツのジャケットを羽織った。


「そこまで決意が固いなら、仕方ないよ。おれにどうにかできる問題じゃなさそうだ」


ただ、と亘さんが立ち上がる。


「ひとつだけ、皮肉を言わせてもらうなら」


わたしは頷いた。


「君は、後悔するよ。そして、後悔していることに、後悔するだろうね」


それでも、別れを選ぶんだね?


亘さんの真っ直ぐな瞳を見つめて、わたしは頷いた。


もう、何が意地で、どれがつまらないプライドなのか分からない。


でも、わたしは頷いた。


「そう。分かった」


帰るよ、そう言った亘さんを玄関まで見送った。


「証明して欲しかったよ。愛は障害を乗り越えるものなんだって」


ドアを閉める直前に、亘さんは言った。


「奇跡は起きないから、奇跡っていうのかな……でも、おれはそうは思えないんだ。どうしても」


亘さんの肩越しにきれいな三日月とまばゆい星が輝いている。


「健太と、きみの場合は、特に」


ドアが閉まった。