恋時雨~恋、ときどき、涙~

「言えば、健太を悩ませてしまうから。また、迷惑をかけてしまうから」


そう。


「健太の重荷になりたくないから。そうだろ?」


違う? と聞いてきた亘さんは、とても穏やかな表情をしていた。


わたしは頷いた。


「きみは、本当に頭が悪いんだね」


亘さんが優しく微笑む。


「でも、それだけ、あいつのことが好きなんだね。健太が羨ましいよ」


そう言って、亘さんは脱いでいたスーツのジャケットから、くたびれた紙を取り出して、テーブルの上にそっと置いた。


「見てもいいよ。もう、時効みたいなものになってしまったから」


と、4つに折り畳んだそれをすっとわたしの前まで滑らせた。


何?


なにか、雑誌を裂いたようなくたびれた紙だった。


4つに折り畳まれた紙をゆっくり開く。


わたしは、まばたきの仕方を忘れてしまった。


【最愛の人へ贈る、約束】


そう書かれたゴシック体の下に、幾つか並んでいたのは、きれいなウエディングリングだった。


その中のたったひとつのリングにだけ、赤いマジックで丸付けしてある。


綺麗……これ……。


顔を上げると、亘さんは微笑んでいた。


「惜しいことしたね。真央ちゃん」


惜しい?


「そのリング。もうすぐ真央ちゃんの薬指で輝くはずだったのにね」


わたしからすっと奪って、亘さんはその紙に目を落とした。


惜しいよなあ、と苦笑いして亘さんがわたしの左手を見つめた。


「先々月だったかな。雨の日だった」


先々月?


雨、という言葉を読んだとたんに、胸がちくりと痛んだ。