恋時雨~恋、ときどき、涙~

「別れる必要はないだろ。健ちゃんが、どれくらいきみのことを想っているのか。分かってるのかよ」


ぐっとこみ上げた感情を隠して、わたしは棚の上から紙とボールペンを取り、また座った。


ぐらぐら体を揺らしながら、亘さんがわたしを睨む。


その視線を無視して、わたしはボールペンを走らせた。


【それなら
 わたしが
 どれほど健ちゃんを想っているか
 分かりますか?】


これは、わたしのエゴに過ぎない。


エゴに過ぎないことは分かっているのに、わたしはボールペンを走らせた。


【健ちゃんのことが好きです
 好きで好きで
 たまらない
 でも
 だから
 こうするしかない】


わたしは、全てを亘さんに白状した。


このひと月の間に、何があったのか。


東京にいる両親からの手紙のこと。


健ちゃんのお母さんとのことも。


全てを紙にぶつけた時には、右手が痺れるくらい疲れきっていた。


全てを知った亘さんは、納得がいなかい顔をしながらも、至って冷静だった。


「……水。もう一杯もらえるかな」


グラスに並々についだ水を一気に飲み干して、亘さんは背中を丸めた。


「……そのこと、健ちゃんは知ってるの?」


そのこと、とは、健ちゃんのお母さんのことだ。


わたしはぶんぶん首を振った。


亘さんの表情が歪む。


「なんでだよ。そんな大事なこと、なんで健ちゃんに言わないんだよ。相談もなしに別れるっていうの?」


ボールペンを握り直したわたしの手をそっと押さえて、


「いいよ、書かなくても。分かってるから」


と亘さんは小さく笑った。