恋時雨~恋、ときどき、涙~

でも、20時になっても、21時になっても、健ちゃんは帰って来なかった。


ラインをしても、既読さえ付かない。


それでも、わたしはじっと待ち続けた。


天井のランプがくるくる回って点滅したのは、時計の針が23時を指す直前のことだった。


健ちゃん?


こんな時間までどこにいたの?


急いでドアを開けて、固まった。


「あ、こんばんは。真央ちゃん」


ごめんね、と苦笑いしていたのは、ぐったりした健ちゃんを肩で支えるスーツ姿の亘さんだった。


とっさに、鼻をつまんだ。


お酒くさい。


「酒臭いでしょ」


亘さんが都合悪そうに苦い苦い笑顔をした。


「飲みすぎたんだ、健太のやつ。見ての通りだよ」


亘さんは担いでいる健ちゃんの頭を、ぺんとひとつ叩いた。


わたしは固まり続けた。


乱れた仕事の作業着。


真っ赤な顔で、どぎついアルコールの匂いを放つ、ぐでんぐでんの健ちゃんを見たのは初めてだった。


〈真央ちゃん〉


亘さんが、わたしの顔を扇ぐ。


え? と顔を上げると、亘さんはゆっくり大きく口を動かした。


「重くて。こいつ。ベッドに運ぶの、手伝ってくれない?」


わたしは頷いて、亘さんに手を貸した。


健ちゃんの体は大きくて、とても重かった。


ふたりでベッドまで運んで、リビングへ戻る。


グラスに冷えた水を入れて差し出すと、亘さんはにっこり笑った。


「ああ、ありがとう。すごく喉が乾いていたから」


空色のネクタイを緩めながら水を一気に飲みほして、亘さんはテーブルの上を見て小さく笑った。