恋時雨~恋、ときどき、涙~

これが、健ちゃんの幸せのためなら、仕方ない。


そう言い聞かせながら、わたしはあふれる涙を止めることができなかった。


健ちゃん。


あなたのことが、たまらなく好きです。
















5月30日。


朝起きると、健ちゃんはどこにも居なかった。


隣のがらんとした部屋にも、キッチンにも、リビングにも。


バスルームにも、トイレにも、どこにも健ちゃんの姿はなかった。


まだ、朝の5時半なのに。


玄関を確かめると、仕事へ行く時の靴がなかった。


車の鍵も。


仕事へ行ってしまったのかもしれない。


もしくは、わたしと顔を合わせないように、朝が来る前にアパートを出てどこかをほっつき歩いているか。


おそらく、後者だろうと思った。


でも、朝になってもわたしの決意は固かった。


断崖絶壁の岩のようにがちがちに固いまま、何も変わらない。


それからわたしは部屋の掃除や洗濯を済ませ、インターネットで宅急便の荷物の回収の手続きをした。


業者の人が来たのはお昼を過ぎてからで、午後からの部屋はどこもかしこもスカスカした。


わたしの荷物はもう、ここへ戻ることはない。


そして、わたしも。


夕方になって、夕飯の支度をした。


こうして、誰かのためにこの狭いキッチンで料理をすることも、もうないだろう。


今日で最後だ。


だから、献立は健ちゃんの大好物ばかりを揃えた。


ハヤシライス。


ポテトサラダ。


コンソメスープ。


デザートは、ミルクプリン。


作って、健ちゃんの帰りを、わたしはひたすら待ち続けた。


ひたすら。