恋時雨~恋、ときどき、涙~

分からない。


〈分からない〉


「分からないって……」


〈でも、わたしはきっと、戻らない〉


健ちゃんの驚いた顔。


胸が苦しくて、息をするのもやっとだった。


でも、どんなにもがいて足掻いても。


もう……後には戻れない。


固まり続ける健ちゃんに、わたしは、告げた。


〈健ちゃん〉


わたしたちは、もう、無理だよ。


わたしは両手の4本の指を甲側に合わせて、左右にゆっくり離した。


ゆっくり、時間をかけて……引き離した。


〈わたしたち、別れよう〉


健ちゃんの瞳が、大きく見開く。


〈別れよう〉


うつむいた健ちゃんの目は、真っ暗だった。


床に落ちた便箋を拾って部屋に戻ろうとしたわたしの腕を、健ちゃんが掴む。


その目は真っ赤に充血していて、涙をいっぱいため込んでいた。


「おれは、別れる気はねんけ。バカなこと言うな」


健ちゃんが踵を返す。


待って、と伸ばすわたしの手をぶっきらぼうに叩いて、健ちゃんは隣の部屋に入った。


「ふざけるんじゃねんけな」


ドアが閉まる。


最悪だ。


何で、こんな終わり方になってしまったんだろう。


もっと時間をかけて、じっくり話し合うべきだったのかもしれない。


そうすれば、お互いに納得できていたかもしれない。


でも、例えこのままこんな終わりでも、これはこれでいいのかもしれないとも思った。


変に情を残したまま終わるより、この方が。